ウサギとカメの物語 番外編


もともと指定していた配達日を1日遅らせるように変更の連絡を入れたはずだったのに、変更前の日時で荷物が届いてしまったというクレームの内容だった。


こういったケースは、正直時々ある。
たいていが事務課の連絡ミスが原因で、変更の電話を受けた者がそのまま放置してしまうことで起きてしまう。
俺も一年目の時にやらかした時、真野さんと須和さんに助けてもらったのを思い出した。


あの時は部長と共にお客様の自宅までお詫びに行ったんだっけな……三越の菓子折り持って。
頑固っぽいオヤジが相手で、ペコペコ頭を下げまくってようやく許してもらえたのだ。
ミスした自分が悪いのだから仕方ないのだけど。


クレームをつけてくる人は様々で、電話口で謝罪すればそれで許してくれる人や、直々に自宅まで来てもらわなければ許さないという人や、もう二度とお願いしませんと絶対許してくれない人などタイプは十人十色だ。


今回の件はもちろん身に覚えもないし、事務課のスタッフも首をかしげるばかり。
休憩中や事務員が電話中で手が足りない時は営業課や受付の人が代わりに電話対応してくれることもあるけれど、どうなんだろうか。


誰ひとりとして身に覚えがないということで、結局犯人探しが始まってしまった。


重苦しい空気の中、ロス紙やレジュメに何か手がかりは無いかと事務課のみんなで仕事そっちのけで探しまくる。
こうして誰がやったのかきちんと追及することで一人ひとりが責任を持って仕事に取り組むようになるし、報告書に名前を載せることで自覚させるという意味があるらしいんだけど……。
あの一年目のミスの時に散々な思いをした俺としては気が重い作業だった。


「もう〜!今日彼氏とデートする予定だったのに〜」


隣の席の後輩の小巻ちゃんがボヤきながらデスクに広げた古いレジュメを一枚一枚確認している。
チラッと周りの先輩方を見やると、みんな疲れ切った顔で手がかりを探していた。


その作業だけで午後の時間が過ぎていってしまった。


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