ウサギとカメの物語 番外編
オフィス街を抜けて、人通りの多い道を見渡す。
帰宅ラッシュはとうに過ぎ去っているので、飲み会帰りか、はたまた二次会へ向かうのか、楽しそうなサラリーマンやOLの姿は多い。
近くに繁華街があるので、そちらから人が流れてくるのだ。
似たような背格好の女性を見つけては追いつき、さりげなく顔を見てみるが東山さんではない。
どこに行ったんだろう……。
もしかしたらもう駅に向かって歩いているのだろうか?
駅まではけっこうな距離があるので走っていったとは考えにくいが、今から追いつくのは難しい。
一度会社に戻るべきか、どうしようか……。
迷いながらもとりあえず近くの勾当台公園へ出ると、そこにある植え込みの石の縁にポツンと東山さんが座っているのを見つけた。
「いた……、良かった」
自然と口から安堵の言葉が漏れる。
遠目から見ても分かった。彼女は泣いていた。
肩を震わせて静かに涙を流す東山さんは今まで見たこともないほど憔悴しきっていて、これほどまでに彼女を傷つけた熊谷課長への怒りもふつふつと沸いてくる。
だけど今は怒ってる場合ではない。
彼女をフォローすることが何よりも最優先すべきことだ。
「東山さん」
おそるおそる声をかけると、彼女はビクッと怯えたように反応してアイメイクが崩れてドロドロになった顔をこちらに向けてきた。
その直後に、慌てたようにハンカチで顔を覆った。
「か、神田さん……。どうしてここに……」
「ごめん、心配で……」
そばに歩み寄ろうとしたら、彼女は思いっきり顔を背けて近づくのを拒否してきた。
「惨めな女だって笑いに来たんですか。それともミスのことで何か伝言でもあるんですか」
泣き腫らした目を伏せて悲しげにそうつぶやく彼女は、とても痛々しくて見ていられなかった。