1ページ過去編
秋の夜長に見る夢は

鈴虫の音に隔される


止んでいた鈴虫の声が、一斉に聞こえ始めた。



あーあ、全部夢だったらよかったのに。

鮮血に濡れた草に足を滑らせながら立ち上がる。

「ねー、ほんとに死んじゃったワケ?」

足先で目の前の肉塊を蹴飛ばしながら呟く。

返事はなくて、当たり前。


あっけないねぇ。


長ーい夜、もうちょっとくらい楽しませてくれなきゃさぁ…。

また退屈しちゃうだろ…?


ザク


裏切るヤツは、


ザク


みんなつまんねーヤツだなぁ。

「止めたら?
泣いてるじゃない」

無言で骸を切り刻んでいた俺に、鈴のような綺麗な、
でもやけに冷めた声を浴びせてきたのは、

「…誰だ?」

夜闇に溶けるような、黒い黒い、少女。

「泣くくらいなら、
殺さなきゃよかったのに」

俺の問いかけには答えずに、死体を見つめて言う。

「信じたかったなら、
裏切りを信じなければよかったのに」

それから、俺を見据えてくる。

頭の中に響く、響く。

反響する。

鈴のような少女の声と、アイツの…断末魔。

「夢だったら、なんて思うなら…」


本当に夢にしてあげましょうか?



暗い夜の闇が、全てを覆い隠す。

響く虫の声が、全てを掻き消す。



静かな喧騒に包まれた、深い深い森の中。
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