Sweetie Sweetie Sweetie





揺らめく、夜の街。





立ち込めるノイズは、小さな叫びのカケラ。





それは、





偽りの世界ではない。







空っぽな世界だ……







☆☆☆☆☆







「もう一軒行こうか!!」



「ああ、それなら、そこの角を左にまがったところに……あれ、右だっけ……」





すっかり出来上がっている松田と塚本は、繁華街の真ん中で、ヘラヘラと笑っている。





「……来るんじゃなかった」





俺は、呟く。





金曜日の夜。







☆☆☆☆☆







それは、俺が勤務している高校の、職員室の奥にある喫煙室から、始まった。



一服しようと、ドアを開けると、最近、妙に意気投合している、同僚の、松田と塚本が、煙草を片手に、コソコソと盛り上がっている姿が目に入った。





「何がそんなに楽しいわけ?」





きっかけは、ほんの気まぐれ。





ただの気まぐれで、声をかけただけだった。





「大矢先生……」





聞けば、二人は飲み仲間でもあり、金曜日の夜は、毎週のように飲み歩いているのだと言う。



それから、あの店が良いだとか、あの店は良くないだとか、それぞれ、何人かいるオキニについても語りだし、





「大矢先生も、どう?」



「そうそう、一緒に行こうよ」





気づけば、二人のノリに巻き込まれ、





「まあ、一回くらいなら……」





そう答えたのも、また、気まぐれ。







☆☆☆☆☆







そうして、金曜日の夜。





二人と街へ出てきたものの、





「慣れないことは、するもんじゃないな」





一軒目のキャバクラの、度が過ぎる装飾には落ち着けず、



着飾った嬢たちは確かに綺麗だったが、



それ故に、過剰な自信ばかりを押しつけられ、



適当な肯定とお世辞を繰り返さなければならず、





「何で、金払って、気ぃ遣ってんだよ!!」





だんだんとバカらしい気分になって、その店を出たところで、





「……来るんじゃなかった」





と、呟いた。





そんな俺の態度に、二人は、つき合いが悪いだの、興醒めだの、ぎゃあぎゃあと文句を言いだしたが、



遊びの時間の一分一秒が惜しいのか、



しばらくすると、俺にかまうことをやめ、次へ行こうと、さっさとネオンの集まる方へ消えていった。





「俺は、夜遊びには向いてないんだよ……」





一人残された俺は、仕方なく、ぼんやりと発光する夜の街に吐き捨ててみるが、返ってくるのは、知らんぷりの喧騒だけだ。





これ以上の長居は無用だということだろう。





「まあ、でも、会ってみたい気もしたけどな。もっと、こう……夜の人間!! みたいな奴に」





呆れ笑いをこぼしながら、まだ走っているはずの地下鉄の駅へと歩きだした時、





「……何がそんなに楽しいんだか」





すれ違いざまに声をかけた、彼女、を、見て、俺、は、足を止める。







瞬間、心臓を鷲掴みにされ引きずり落とされるような感覚が襲う。







その目が、あまりに、虚だったから。







一見、暗いとも言える、冷たいとも言える、だが、そのどちらにも当てはまらない、それは、そのどちらでもないからなのだろう。







故に、虚。







彼女は、完璧な虚を崩さず、口元だけで笑いながら、通りすぎていく。



やけに馴染んだ雰囲気からして、この街の人間だろう。







俺は、望んだ通り、



夜の人間に、



出逢ったのだ。







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