Sweetie Sweetie Sweetie
揺らめく、夜の街。
立ち込めるノイズは、小さな叫びのカケラ。
それは、
偽りの世界ではない。
空っぽな世界だ……
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「もう一軒行こうか!!」
「ああ、それなら、そこの角を左にまがったところに……あれ、右だっけ……」
すっかり出来上がっている松田と塚本は、繁華街の真ん中で、ヘラヘラと笑っている。
「……来るんじゃなかった」
俺は、呟く。
金曜日の夜。
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それは、俺が勤務している高校の、職員室の奥にある喫煙室から、始まった。
一服しようと、ドアを開けると、最近、妙に意気投合している、同僚の、松田と塚本が、煙草を片手に、コソコソと盛り上がっている姿が目に入った。
「何がそんなに楽しいわけ?」
きっかけは、ほんの気まぐれ。
ただの気まぐれで、声をかけただけだった。
「大矢先生……」
聞けば、二人は飲み仲間でもあり、金曜日の夜は、毎週のように飲み歩いているのだと言う。
それから、あの店が良いだとか、あの店は良くないだとか、それぞれ、何人かいるオキニについても語りだし、
「大矢先生も、どう?」
「そうそう、一緒に行こうよ」
気づけば、二人のノリに巻き込まれ、
「まあ、一回くらいなら……」
そう答えたのも、また、気まぐれ。
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そうして、金曜日の夜。
二人と街へ出てきたものの、
「慣れないことは、するもんじゃないな」
一軒目のキャバクラの、度が過ぎる装飾には落ち着けず、
着飾った嬢たちは確かに綺麗だったが、
それ故に、過剰な自信ばかりを押しつけられ、
適当な肯定とお世辞を繰り返さなければならず、
「何で、金払って、気ぃ遣ってんだよ!!」
だんだんとバカらしい気分になって、その店を出たところで、
「……来るんじゃなかった」
と、呟いた。
そんな俺の態度に、二人は、つき合いが悪いだの、興醒めだの、ぎゃあぎゃあと文句を言いだしたが、
遊びの時間の一分一秒が惜しいのか、
しばらくすると、俺にかまうことをやめ、次へ行こうと、さっさとネオンの集まる方へ消えていった。
「俺は、夜遊びには向いてないんだよ……」
一人残された俺は、仕方なく、ぼんやりと発光する夜の街に吐き捨ててみるが、返ってくるのは、知らんぷりの喧騒だけだ。
これ以上の長居は無用だということだろう。
「まあ、でも、会ってみたい気もしたけどな。もっと、こう……夜の人間!! みたいな奴に」
呆れ笑いをこぼしながら、まだ走っているはずの地下鉄の駅へと歩きだした時、
「……何がそんなに楽しいんだか」
すれ違いざまに声をかけた、彼女、を、見て、俺、は、足を止める。
瞬間、心臓を鷲掴みにされ引きずり落とされるような感覚が襲う。
その目が、あまりに、虚だったから。
一見、暗いとも言える、冷たいとも言える、だが、そのどちらにも当てはまらない、それは、そのどちらでもないからなのだろう。
故に、虚。
彼女は、完璧な虚を崩さず、口元だけで笑いながら、通りすぎていく。
やけに馴染んだ雰囲気からして、この街の人間だろう。
俺は、望んだ通り、
夜の人間に、
出逢ったのだ。
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