ハメごろし

 震える体とはうらはらに本能は『見たい』と思っていた。


 ぐっと一度強く拳を握りしめ、ドアノブをつかみ、静かに回した。金属の擦れる音が奇妙に響く。


 家の中から外へ流れてくる空気は異常だった。ぴりぴりと冷たくて痛い。私の体にまとわりついて舐めまわした風は広い世界へと溶け込んでいった。


 靴を脱いで上がり、きちんと揃えた。玄関のタイルの線に沿って靴を並べた。


 ランドセルは傘立ての横に置いて、開きっぱなしになっているリビングへと向かう。




 シンと静まりかえっている家の中には得体の知れない何かがひそんでいそうで不気味だ。壁の染みすらも違ったものに見えてくる。



 歩くたびに軋む廊下の音もなんだか気味が悪い。




 玄関横に置いてある姿見の中に自分の姿が映っている、顔色は青い。目の下も黒くなっている。それに、目がうつろだった。


 両手で頬を包んでみるけれど、顔は思いの外冷たくて氷のよう。唇も紫色に変わりカサカサに乾燥して皮がめくれていた。前歯で器用に乾燥している唇の皮を擦りとり飲み込んだ。


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