ハメごろし

 黒い影はリビングへと消えた。私は鏡から視線を剥がし、薄く開いているリビングへ足を向けた。



 キー……キー……という音はいまだに響いている。



 唾を飲んだ。




 ドアをそっと押すと軋んだ音を響かせて内側に開く。






「誰か、いるの?」





 声は震えていた。呼吸が早くなってきて、そして、その先に見たものに心臓は凍りついた。



 声が出ない。


 足が震えて動けない。


 体が激しく震えて歯がガチガチ鳴る。


< 28 / 91 >

この作品をシェア

pagetop