ハメごろし

 もちろん準備はできている。


 私の側には人が刺せるくらいの竹串と桜のチップ、ヒッコリーチップが用意してある。




「本当に、心から君のことを愛してる」


「私もです」


「君に言っていないことがある。それが君がこれからすることだよ。いいね。これが最後になる」


「…………」


「それを君はこれからしなければならない。ひとりで。君がそれをしなければ僕は完成しないんだ」


 彼の目を追うと、視線は壁を捉えていた。そこには数枚のメモがとめられていた。


「そこに書いてある通りにするんだ。そうすれば君と僕は一緒になれる」


 私はそこに目をやり、ゆっくりと側まで行ってメモを剥がし、ポケットにしまった。


 体が動かないのに、どうやってそこに貼ったんだろう。



「それでいい。そう、そうするんだ」


「……」



「君は頭がいい。絶対にやりきることができるよ」



 笑んだ彼とはうらはらに私は絶対ということばが嫌いだった。


 この世の中に絶対なんてない。



 だからこそあなたが死ぬんじゃないか。



 こんな理不尽な世の中、なくなればいい。



 なくならないならば、






 なくしてしまえばいいんだ。





 そう思った。



< 6 / 91 >

この作品をシェア

pagetop