サヨナラ、愛してる君へ。
少し離れた我が家につけばこの傘と同じ
赤いヒールが無造作に玄関に脱ぎ捨てられていた。


俺はまたため息をついてから靴を揃え、リビングへ向かう。







「母さん、靴ぐらいならべろよ」







ソファーでゴロンとしている母に声をかければ
ぴょこんと起き上がる。







「ちょっと、隼人冷たくない!?
3ヶ月ぶりに再会したのにさ」







そう言っていじける母はこれでももう40代だ。

まだ30代に見えるとはいえども、
もうさすがにこれはキツイなんて苦笑をこぼしてから







「はいはい、今回はどれだけいれんの?」







なんて聞けば、母は自慢気に胸を張ってから







「なんと、3週間もいられます!!」







なんて高らかに宣言した。



こんなアホに見える母だが才能があるらしく
本場フランスでデザイナーをしている。

そんな母は滅多に家に帰って来ないし
父親は俺が生まれる前に蒸発したとかで、
現在学校からそう遠くないマンションで一人暮らし中なのだ。







「今日の晩飯なんにする?」

「母さんが作るから隼人は休んでおきなよ」







家事は不器用ながらこなす俺が
唯一料理を苦手とすることを知っている母はそう言って腕まくりをした。
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