サヨナラ、愛してる君へ。
素の自分なんてわかるはずもない。

不器用で感情表現が苦手な俺に
そんな高度な事を言わないでくれと切実に思う。






「へー、隼人くんか」






いい名前だね、なんて笑って言う先輩は
とっくに自分が言ったことを忘れている様子。

取り敢えずよかった、なんて胸を撫で下ろし。






「じゃあ如月くんよ何食べる?」






男と食べに来たのに後輩ということもあってか
さっき宣言した通り奢ってくれる気満々な様子だが、
先輩で仕事をしている人だとはいえ
女の人に奢ってもらうのは俺のプライドが許さないわけで。

絶対に奢らせない。
むしろ奢ってやるという謎の勝負心が燃え上がったのだった。






「ガトーショコラと珈琲で」

「おおー、想像通り」






そう言ってから慣れた手つきで
フォンダンショコラとアールグレイを追加して頼んだ先輩は
俺の少し見栄を張った大人っぽさとは違って
篤樹あたりが聞けば笑うだろうが、本当に次元の違う人に見えた。


普段話している時は幼さが見え隠れするのに
こんな時やふと目を伏せ目がちにした瞬間、何故か綺麗な大人に見える。
1つしか変わらないはずなのに不思議なものだ、なんて思った。
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