めぐり逢えたのに
テーブルには、今日、デパートから届けられたであろう、刺身の舟盛りや、金箔をちらした輪島塗りのお重に詰められた(これも仕出しを頼んだに違いない)見事なおせちが並ぶ。
義父からお屠蘇を押し頂くと、一同和やかな雰囲気で食事は進んだ。

彼のお兄様とその奥様とも初めて顔を合わせた。
奥様もやっぱりどこぞの令嬢で、一つ一つが丁寧で優雅なその仕草は、育ちの良さを感じさせるに十分だった。

私は、佐々倉の恋人だというしおりさんのことを自然と考えてしまった。
後ろ盾も何もない、普通の人がこの中でやっていくのは大変だろうと、何となく思ったからである。

万一、嫁いびりなんてされたら、私は、戸川の父に盛大に泣きつくことが出来るし、佐々倉の家にしても、私に対する遠慮はあるだろうと思うのだ。

しかし、普通の人であったならば……なかなか厳しいのではないかと思った。



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