めぐり逢えたのに
大学を卒業すると、お式の準備が急ピッチで進められた。
いろんな事情を知っているのは、大親友の友美だけで、ヒロにも詳しいことは話してなかった。

結婚前の最後のチャンスとばかり、私と友美は、二人のお気に入りの店をはしごして、朝まで飲み明かすつもりだった。

「うちはさ、成金だから戸川のマリカ様のところみたいに大変じゃなくて良かったよ。」
「我が儘放題してきたツケなのかしらね。まあ、おとなしく結婚するよ。」

私が、ため息をつきながら言うものだから、友美は、

「結婚前の花嫁がため息をつくなんて。」

と、我が事のように嘆いてくれて、私は改めて女の友情を感じていた。

街角の電光掲示板にでかでかと写し出された彼のほうをあごでしゃくりながら、友美は心配そうに私の顔を見た。

「さすがに気持ちの整理はできてるよね?」
「そもそも会う事もできないしね、あんなに売れちゃって、いまじゃすっかり一流の俳優の仲間入りだもの。」

私はなるべく投げやりに聞こえるように努力した。

「会えないのと忘れられるっていうのは全然別の話じゃないの?」

私は、友美の質問には答えず、新居用に最近買ったエスプレッソマシーンの話で盛り上がった。



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