めぐり逢えたのに
「会いたいなぁ……」

私は叶うはずのない望みを口にしてみた。それに、結婚してるっていうのに、会ってどうするというのか。

「誰に?」

後ろから急に声がしたので、びっくりして振り向くと、佐々倉が手にグラスを持って立っていた。

「佐々倉さんに関係ない人。」

「小野寺ね。もう、アイツのことは忘れて次行きなよ、次。」

佐々倉はソファに腰をおとして、グラスにワインを注いだ。その言い方が皮肉っぽいわけではなく、優しい口調だったので、私もしんみりしてしまった。

「確かにね……、何で次行けないんだろうね?!」

「そんなに良かったの、小野寺のセックスって。」

「な、何てことを言うの、佐々倉さん!」

「だって、女が男のことを忘れられないってそれしかないじゃん。」

彼が私の体にキスして来た時の舌の感触がよみがえってきて、また下腹部がきゅっとなった。

「そ、そんなことないです。」

「オレに見栄はったってしょうがないよ。本音を言っちゃえよ、スッキリするぞ。」

「ムリ。ワインが足りない。」

「おや、その気になってきましたね。」

おどけた口調で、佐々倉はワインを注ぎ足した。
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