めぐり逢えたのに
「佐々倉さん、送って来てくれてありがとうね。もう大丈夫だから。」

佐々倉は、しおりの言葉を無視して中に入っていくと、受け付けで、しおりの分の料金を精算して、荷物を全部持ち出した。

「君をこんなところに置いておけるわけないだろう、いくら何でも。」

「で、でも、あたし、行くところ、ないんだよ。」

「わかってるよ。だから、月曜日から仕事とアパートを探そう。それまでは家にいていいから。」

「そんなこと、佐々倉さんにしてもらうわけには行かないよ。」

なおも遠慮するしおりを連れ出してタクシーに乗った。



しおりの身の回り品はボストンバッグ一つにすっぽりとおさまり、持ち上げた時の軽さに佐々倉はたじろぐ。
無邪気な明るさをみせるしおりの横顔を見ていると、胃液がこみ上げて来るようななんとも言えない嫌な気分になる。
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