めぐり逢えたのに
「で、結局、何で君と僕はここでこうやって乾杯してるんだっけ?……ああ、丸の内劇場の『64』。」

佐々倉は唐突に話題を変えた。

そうだ、彼の初の大舞台の初日を見に行った時に、佐々倉と初めて会ったのだった。
私はてっきり母が彼と会うようにしくんでいたとばっかり思っていたのだが、どうもそうではなく、本当に偶然だったみたいだ。

「あれで、うちのお袋と君の母上が意気投合しちゃって、オレたちが今ここでこうしてワインを飲むはめになってるんだもんな。」
「そうだったの?!」
「そう。あの時、どっちかが『64』を観に行ってなければ、また、違った展開だったかもね。」

佐々倉は少し悪酔いをしてきたようで、饒舌なおしゃべりはとどまるところがなかった。

「二人とも、すい星のごとく現れた、期待の大型新人、小野寺拓也の話で盛り上がってたからなー。確かに、舞台での小野寺拓也、迫力あったもんな。」

「……やめてよ。」

いい加減自分の家(といっても隣りだけど)に戻りなよ、しおりさんはいいの?と言おうとした時、独り言のように呟いた佐々倉の言葉は聞き捨てならなかった。

「あの時はなー、まだしおりがウチに転がり込んでくる前だったし、まさか、お袋にちょっといい顔したのがこんな結果になるとはな〜。
ま、戸川のおじさんも結構ひどいよなあ、小野寺だけじゃなく、しおりも散々な目にあったけどなあ。」

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