めぐり逢えたのに
佐々倉がこれほど酒癖が悪いとは思わなかった。
スマートにお酒を嗜むところしか見た事がなかったので、軽い衝撃を憶える。

「知ってる?アレ、戸川のおじさんのやったことだぜ。」

「アレって?」 

「あの舞台。小野寺を主演にしたのは、戸川のおじさんの強力な工作があったんだぜ。」

「本当に?」

「じゃなきゃ、全く無名の新人が、丸の内劇場の五谷の演出の主演なんかに抜擢されるかよ。オーディションもなしでさ。さすが、戸川由起夫だよな。手切れ金もスケールが違う。」

私は、顔色を失っていくのがはっきりと分かった。

じゃあ、彼は舞台の主演と引き換えに私と別れることを承諾したのだろうか。

「ね、それにしても、アナタ、なんでそんなにいろいろ詳しいの?」

べろべろに酔っぱらった佐々倉は、

「君はほんと〜に何にも知らないんだねぇ〜。こんど、じっくりパパと飲みに行きなよ。もっと面白い話がわんさか出てくるよ。」

とぼやき、グーグーといびきをかいてカウチで眠ってしまった。



< 139 / 270 >

この作品をシェア

pagetop