めぐり逢えたのに
時が止まったように、周りの景色がゆっくり動く。

人々の歓声が遠くの方に聞こえて私はゆらゆらと宙に浮いているような頼りない気分だった。

彼の視線の先には私がいて、私は彼の視線から目をそらす事ができなかった。
彼は私を見ながらゆっくり歩いていたが、彼は私に声をかけることも立ち止まることもなく私の横を通り過ぎていった。

彼が会場に姿を消すと、私は我に返った。

周りの人々が軽やかに動き出す。楽しそうなざわめきが音楽のように聞こえた。

私は慌てて周りを見回して佐々倉を探した。とうの昔に佐々倉は会場の方へ移ったらしく、私も後を追った。


八年前はここの中をいくら探しても彼は見当たらなかった。

でも、今日は黙っていてもどこに彼がいるかすぐわかった。彼の近くはちょっとした人の輪ができて、ざわめきの声が周囲よりも少し大きかったからだ。
それに、そのざわめきには黄色い声が多いような気もした。


私は落ち着く為に、歩き回るウエイターから水をもらっては一口飲んでグラスを置き、少し歩いてはまた別のウエイターから水をもらう、というような具合で、わけもわからずパーティー会場の中をさまよっていた。

とにかく、佐々倉と一緒に佐々倉のお父様とお友達(大京電気の亀山勇三だった)を探して挨拶しなければ、ここに来た意味がない。

私の動揺は全くおさまる気配がなかった上、人の多さにすっかりのぼせてしまっていたので、全く息苦しくて仕方がなかった。
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