めぐり逢えたのに
どこに行けばいいかはわかっている。


会場を出て、中庭に向かった。

どんどんと奥の方に歩いて行く。ガラス越しに明るくて華やかな会場が見えた。

いつか見た風景と同じだ。

かすかに漂ってくるたばこの香りに気付いて、私は確信した。

彼は私を待っている。

確か、この木を曲がった影に……、



いた。


俯きかげんで木によりかかかってたばこをふかしている彼が、いた……。


彼は私の足音に気付いて顔をあげた。

あの時と同じだ……。まるで、時が戻ったようだった。


私たちはしばらく見つめ合った。彼はゆっくりと私に近づいて来て、ゆっくりと優雅に私を抱きしめた。

彼も私も身動き一つせず、無言のまま、お互いの存在を確認しあった。
そこには、この五年間、私が求めていた、彼の香り、感触、息づかいがあった。

彼に包まれながら、私は卒倒しそうだった。



< 150 / 270 >

この作品をシェア

pagetop