めぐり逢えたのに
しばらくして、彼は太い息をもらした。

「遅いよ。こんなにびくびくしたのは久しぶりだ。」

木の根もとを見ると、たばこの吸い殻が十本以上落ちている。
それから、私たちはどちらからともなく唇を重ねた。たばこの香りが私の中に充満する。

ざわざわっという音が近くで聞こえてびくっとする。私たちは、まるで磁石の対極がぶつかったように慌てて離れた。小鳥が木から飛び立った音だった。

私は、彼の腕を掴んで走り出した。
人目につかないところを走って表近くまで出ると小声で言った。

「この辺で見つからないように待ってて。すぐ来るから。」

表に出ると、待機している係の人にチケットを渡し、荷物を取ってくるから車を回してもらうようにと頼んだ。

係の人が車の手配をしたのを確認してさっき彼をおいてきた場所まで小走りに戻る。
彼は大きな木の陰に隠れていた。光の加減で丁度影になって、表からは全然気付かれなかった。

私は、佐々倉の車が表に回って来たのがちらりと見えると、彼にささやいた。

「あの車に乗るよ。一緒に来て。」



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