めぐり逢えたのに
彼は、少し前かがみになって、私と視線を合わせた。それからまっすぐな瞳で私をすいよせる。

「……万里花さん、愛してる。」

それから彼は私を抱きしめ、照れたように下を向いた。

「ごめん……、ちょっと遅すぎたね、言うのが。」
「うん、本当に……、遅すぎる。」

いきなりの愛の告白に何よりも戸惑ってしまった。

私は、嬉しいんだか悲しいんだかよく分からなかった。でも、やっぱり喜ぶことなんだろうと思った。特に、愛してた、じゃなかったから。

彼はそのまま両腕で私の頭をぎゅうっと抱きしめた。彼の息づかいを耳元に感じた。

「すごく後悔した。黙って突然いなくなったこととか、せめて話をして別れるべきだったんじゃないか、とか、そもそもあんな風に別れる必要があったのか、とか……。
ずっと逢いたかった。」

「でも、『64』の主演になることを条件に別れることに同意したんでしょう?」

私は、頭の片隅でずっとひっかかっていた疑問を単刀直入に彼に突きつけた。彼は、はっとした顔をして、ふっと笑い出した。


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