めぐり逢えたのに
メモにはムンクの叫びのイラストが添えられていた。

私はこのメモを見て思わず笑ってしまった。
ムンクの絵にほっこりしたからじゃなくて、全く同じメッセージを既にラインでもらっていたからだ。

彼も、メモを残さないとやっぱりどこか落ち着かないようだった。

描かれたムンクの絵が彼の心境をよく表していたので、叫びたいのはこっちだよ〜、って返事を思わず書いていた。

私がワインを開けながらメモ遊びをしていると、佐々倉から今からこっちに来ていいか、ってメッセージが入ってきた。

あの時のパーティー以来だ。まあ、いいかな、と返事をすると、すぐさま隣りからやって来た。

「はい、これ、お土産。」

持って来てくれたのは、ワインとチョコレート、と、さきいか。飲む気満々である。

佐々倉は、私の了解もとらずに、我がもの顔でどかっとカウチに座ると、私の飲みかけのワインをグラスに注いだ。

「聞きたいだろ、しおりの話。」

すでに一杯飲んでるのか、私のことなどお構いなしでべらべら喋り出す。
私はこの時までに、意外と酒癖が悪く、酔うとおしゃべりが止まらなくなるということを知る程には、佐々倉のことを理解していた。

特に、しおりさんのことを話したくなると、私のところに来るようだった。
多分、心置きなくしおりさんの自慢話ができる相手は私しかいなかったのだろう。

それは、私にしても同じことだ。

私たちは、まるで共犯者のように、お互いの秘密を打ち明けるのだった。



< 164 / 270 >

この作品をシェア

pagetop