めぐり逢えたのに
それから、しおりは、いくつ面接に行っても、バイトですら、かすりもしなかった。

100回ぐらい面接を受けたころだろうか……。
しおりは突然佐々倉の母に呼び出された。

「あなたもいろいろ大変でしょう、今日は、微力ながらお力になれないかと思って、伺ったんですよ。」

しおりの目の前に分厚い封筒を置いた。

「もちろん、これからのこともありますから、もし、気が向いたら、こちらにご連絡下さいね。彼が力になってくれると思いますよ。」

さらに、一枚の名刺を差し出した。
しおりが返す言葉もなく呆然としていると、佐々倉の母はさっさと席を立ってその場を立ち去った。挨拶の言葉もなかった。

「今日、こんなものもらった。」

しおりは、佐々倉の母が置いて行ったものをそのまま佐々倉に渡した。

「ね、あたしたち、別れよう?あたしが認めてもらえないのは、あたしは佐々倉さんのために何の役にも立たないからなんだよ。
 さすがのあたしも参った。ただのバイトだって、ひとっつもひっかからないし、このままじゃ佐々倉さんのお荷物になるだけだし。
 だから佐々倉さんの側にいない方がいいと思うんだ。」

佐々倉は生まれて初めて、「沸騰するような怒り」が腹の底から沸き上がって来るのを感じた。



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