めぐり逢えたのに
確かに、しおりは恵まれた環境で育ってきたとは言えない。

でも、そういう自分の環境を嘆く事もなく、誰かに甘えることもなく、まっすぐ堂々と努力をしてきた。
他人の悲しみに心を砕き、優しく明るく振る舞える彼女を佐々倉は尊敬していた。

しおりは、自分が空腹でも、最後の一切れのパンを目の前の誰かにあげられるような人だ。佐々倉のハンカチを買うために、青山から日本橋まで喜んで歩くような子なのだ。いつでも快活に屈託なく笑う彼女の笑顔が何よりそのことを証明していた。

佐々倉は、そういう彼女の天性の性格の良さを何よりも愛していた。

佐々倉の母を恨むこともなく、精一杯やれることをやろうとする彼女を知りもしないで、なぜ、拒絶するのか。一体、しおりが母に何をしたというのだ。


許せない。


実の母だろうと、いや、実の母だからこそ、佐々倉の気持ちを全く理解しようとしない母を許せなかった。



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