めぐり逢えたのに
しおりから聞かされる、しおりのお母さんの話は、楽しいエピソードに満ちていて、しおりが大事に可愛がって育てられたことを物語っていた。

大体、しおりの性格の良さを見れば、そんなのは言うまでもないことだった。

家族のいないしおりが気にする気持ちはよくわかったが、それでも、しおりが反対すればするほど、余計に佐々倉の気持ちはしおりへと向かった。

しおりのお母さんのように、心優しい親であれば、息子の恋人を貶めたり、仲を引き裂いたりするはずがないのだ。
佐々倉の母のエゴが醜く感じられた。

だから好き勝手してやれ、と佐々倉は思った。

佐々倉の両親が望むように、結婚してやろうじゃないの。だけど、別に結婚に誠実である必要などどこにもない、と思った。
そして、両親の財産を食いつぶし、戸川を傾ける。
これ以上の復讐があろうか?

「それに、そんなことで結婚したら、奥さんになる人だって悲しむよ。」

「戸川の娘のことなんか、どうでもいいよ。」

「良くないよ? その人は何も悪いこと、してないでしょう?」

「…………」

なおも押し問答した後、しおりは、最後に佐々倉に押し切られる形で、
 
「全部事情を話して、奥さんになる人が納得したら考えてもいい。」

と妥協した。



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