めぐり逢えたのに
「しおりさん、今日はどうしてるの?」

「高校の友だちの就職祝いで飲み会に行ってる。」

「高校の友だち?」

「しおり、去年通信制の高校に通って高卒認定試験、受けたんだよ。その時一緒に行ってた仲のいい子が、就職が決まったからって、お祝いしてる。」

「ふーん……。」

一瞬の沈黙が私たちを襲った。

私は、目の前にあった、彼からのメモを手でもてあそびながら、佐々倉が話した事を頭の中で反芻していた。
佐々倉が感じるフラストレーションは私が感じるそれと全く同じだった。
親から解放されない自分。圧倒的な力の差の前に感じる敗北感。

どんよりとした雰囲気を変えたくて、私は佐々倉に彼からのメモを見せびらかした。

「結構絵が上手でしょう〜、ホントに行きたくなかったみたい。」

その日のメモだけでなく、最近彼が書いたいくつものメモを佐々倉に見せた。

彼が書き置いた細かいメモの数々を捨てるのもなんだか忍びなくて、私は一冊のスクラップブックにまとめてた。
多分、また、突然引き裂かれたとしても、このメモを見る度に、彼を信じられる、
私はそんな風に思っていたのかもしれない。

彼と私の写真は少ないけれど(さすがに何枚か一緒に撮った)、その代わり、私たちの間には大量のメモが飛び交っていて、メモを読み返すだけで、そのときそのときの情景がはっきりとまぶたに浮かんで来て、そのスクラップブックは、私の大事な宝物になっていた。



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