めぐり逢えたのに
それから、ほどなくして、玄関の鍵がかちゃかちゃと開く音がした。

彼が戻って来たのだった。期待していなかった分、嬉しさもひとしおで、玄関にすっ飛んで行った。

「お帰り〜。帰ってこれたんだ。」

私は、彼にじゃれついてはしゃいでいたら、佐々倉がひょっこりと顔を出した。

「おじゃましています。」

佐々倉の丁寧な挨拶は、返って彼を戸惑わせたようで、

「いえ、こちらこそ。」

と言うから、三人ともそのおかしさに気付いて、どこからともなく笑いがこみ上げて来た。
佐々倉が、じゃあ、と言って戻ろうとすると、彼は困ったような顔になった。

「良かったら、一杯一緒にどうですか。」

彼は私たちが飲んでたのを察したようだった。
佐々倉が私の顔を見るので、何だか私もバツの悪い思いをしてしまった。

世間から見れば、旦那と愛人が鉢合わせした図で、でも、私と佐々倉は夫婦というにはあまりにも関係が希薄で修羅場になるような愛憎はない。佐々倉は淡々としていたし、彼はそれこそ立ち位置がわからず当惑していた。

私は、誰かに彼のことを自慢したいという誘惑に勝ちきれず、佐々倉を誘ってしまった。



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