めぐり逢えたのに
なんでオレが唐沢美穂なんかと……、頼まれたってお断りだよ、と天に向かって叫びたい気持ちだ。
すぐに部長に呼ばれ、その気持ちをそのまま吐き出した。

佐々倉の話を聞くと、部長は同情するように説明した。

「地雷踏んじゃったな、佐々倉くん。彼女、割と有名なんだよね。」
「有名?」
「誰これ構わず食いものにする、って。」
「食いもの……って、彼女、女じゃないですか。」
「とにかく、セクハラ疑惑とかに発展するのだけは気をつけてくれよ。騒ぎになったら、会社としても対応せざるを得ないからさ。彼女に関しては、被害者が何人かいるから大丈夫だとは思うけど……。で、カミさんは何か言ってたか?」
「しお……いえ、うちのが怒っちゃって大変でした。」

そうなのだ。あの夜、こっそりうちに帰るとしおりはまんじりともせずに佐々倉を待っていたのだった。
しおりは、酒と化粧の匂いをプンプンさせながら帰って来た佐々倉を玄関で仁王立ちにして待ち構えていた。いつも朗らかで機嫌のいいしおりが本気で怒るとえも言われぬ迫力がある。

どう考えても悪いのは佐々倉だったから、平身低頭謝って、その晩はようやく許してもらったのだった。



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