めぐり逢えたのに
それこそが、佐々倉の最大の悩みのタネだった。
最初こそ怒って佐々倉を家から追い出したりする元気があったものの(私たちがハワイに行ってたときの痴話げんかというわけだった)、度重なる唐沢美穂の脅しに、佐々倉の対応が後手後手に回ると、しおりの方もすっかり落ち込んでしまった。

「あたしが直樹の側にいると迷惑がかかるだけだね……。」

昨日も、しょぼんとされた。
これだったら、怒って怒鳴られる方が余程マシというものだ。解決の糸口が見えて来ない状況で、佐々倉は、しおりが、いつ出て行く、と言い出すか心配でならなかった。



「それにしても、何で、戸川の社員たちは、君のことを知っているんだ? 割と有名だったよ。『戸川のマリカ様』って。」
「………。」

私は、顔をあからめて無言になってしまった。それまで、黙って、話を聞いていた拓也が、少し笑った。

「オレも知ってたぐらいだからな〜、『戸川のマリカ様』って。戸川にもすっかり知れ渡ってるんだね、綺麗だけど、我慢知らずの、我がまま箱入り娘って。」
「確かに。美しくて不遜で傲慢なお嬢様だ。」

佐々倉も相づちをうつ。

「オレには、素直で純粋な可愛いお姫様なんだけどね、万里花さんは。」

危うく怒り出すところだったが、拓也の一言で私の機嫌はたちまち直ってしまった。
やっぱり……、拓也は最高だ。


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