めぐり逢えたのに
「階段で行かない?」

佐々倉は唐突に提案するとさっさとチケットを買って、何となく私は佐々倉について階段を登り始めた。

「階段登って上までいくのなんて初めて。」
「東京タワーもスカイツリーも行ったこと、ないんだよな……。」
「私はスカイツリーには行ったわよ。」
「それどころか、ディズニーランドも、もしかすると遊園地にも行った事がないかもしれないなあ。」
「私は、小ちゃい頃は毎年いとことディズニーワールドに行ってたよ。」
「映画を見に行った時だって、スクリーンの大きさにびっくりしてたし。」

私は、佐々倉がしおりさんの話をしているのにようやく気付いた。

「もっといろんな所に行ったり、アイツがびっくりしたり、喜んだりする顔を見たいんだけどな……、オレじゃ無理なのかな、こんな景色とかね。」

階段の踊り場から見る東京の景色は何だか現実のものとは思われなくて、佐々倉と一緒にいることも何だか現実のものとは思えなかった。
その後、展望台に行ってエレベーターで下まで戻って来たのだが、その頃にはお互い無言で黙々と家に向かって帰って行った。私は佐々倉が何を考えているのか痛いほど分かったし、佐々倉も私の心の内を読んでいたに違いない。



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