めぐり逢えたのに
「時に、直樹くんのご両親はお元気かね。」

「相変わらずですよ。父は、マラソンのタイムが伸びないので悔しいようです。ダイエットに励んでトレーニングしてますから。」

「それで、飲みにさそってもなかなか応じてくれないのかな。近いうちに一献交わしたいと思っているんだが。」

「父も喜ぶと思います。」

腹の探り合いのような会話を横できいて、私の方が胃がキリキリとしてくる。
父が急に私たちを呼び出したからには、何か言いたいことがあるからに違いなかった。

「母上も、この度は心穏やかじゃなかったんじゃないか。」

さすがに佐々倉はハッとした顔になった。

「どうでしょうか。よその家に出した息子のことまで気にかけている暇はないと思いますが。」

「子どもはいつまでたっても子どもだ。いくつになっても気になるものだよ。お母上の心遣いがわからない君じゃないだろう。」

「…………」

「若い時には、全体を俯瞰してみることは難しいのかもしれないが。なあ、万里花?」

ドキリとした。一時の激情にかられて突っ走るな、ということだろうか。父は目の前に注がれた、八海山を一気に飲み干すと、佐々倉がおかわりを注ごうとするのを手で制して自分で注いだ。父は、人に酒を注がれるのが嫌いで、自分の好きな酒を自分のペースで飲むのを好んだ。



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