めぐり逢えたのに
事態急変
今でもはっきりと耳に残っている。

「ま、直樹くんに任せておけば、『戸川』も『万里花』も間違いないだろう。」

父が嬉しそうに呟いた言葉が。

まさか、あれが、父の最後の言葉になるなんて。加賀やで食事をしたその一週間後、父は交通事故に巻き込まれて、あっけなくこの世を去った。

「戸川」の最高責任者の突然の訃報は、会社中を震撼させた。
父はまだ若かったし、全くの不慮の事故であったので、何の準備も出来ていなかった。佐々倉と私は知らせをきくと取るものもとりあえず、病院に駆けつけた。

母と祖父と叔父はすでに父の元へ来ており、皆が父を囲んで沈痛な面持ちでいた。穏やかな顔ををして横になっている父の身体が冷たくなっているなんてとても信じられない。



あまりの事態の急変に私の感情はとてもついていくことができなかったけれど、それでも、太陽は東から上って西に沈んで行くように、当たり前のように粛々となされるべきことが処理されていった。




< 237 / 270 >

この作品をシェア

pagetop