めぐり逢えたのに
あんなにとっさの出来事だったにも関わらず、お通夜とお葬式の手配は驚くほど迅速で、経営者の交代も事情を鑑みれば驚異的に手際が良かったと言えるだろう。

すぐに叔父の戸川邦夫が取締役社長に就任し、国内業務部の部長が叔父の後がまとして取締役会の副社長に就任した。今は業務部長と兼任の副社長は、適当な時期が来たら、業務部長職を佐々倉に譲るのだろう、というのが社内のもっぱらの評判だった。

皮肉な事に、父の死が、佐々倉の昇進を早めそうだった。

父の死から二週間も立つと、「戸川」は以前のように滞りなく業務が動いていった。

さすがに日本を代表する大企業だけのことはある。戸川由起夫の死が、即座に経営に異変をもたらすこともなく、お家騒動を起こす事もなく、非常にスムーズに経営はバトンタッチされた。

全く前と変わりないような日常が戻って来て、私は父の死がまだ実感として沸いてこなかった。
細かいゴタゴタはいろいろあったけれど、拓也と私のスキャンダルも、父の死によって吹っ飛んでしまって、いつの間にか風間俊一とJKBの鮎川菜々の熱愛報道の影に隠れてしまった。


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