めぐり逢えたのに
佐々倉は次の日、早速田中副社長に事態の詳しい説明を求めた。

最初はそんなことあるわけないだろう、の一点張りだったが、本当のことを言わなければ雨宮に会わせない、と脅しをかけたらあっさりと白状した。

戸川邦夫の指示で、田中がやっていたらしい。

その日の夕方、佐々倉の父から、明日一席設けることになったから、という連絡があった。田中にそれを伝えると、露骨に安心した顔になった。

「社長もご同席されるんですよね。」

田中に再度確認すると、田中は大きく首を縦に振った。

「もちろんですよ。戸川の命運がかかっていますからね。」

田中はその場で戸川社長に内線を入れ、会食の件を伝えた。

それにしても今どきリコール隠しなんて時代錯誤も甚だしい。
隠しおおせるものではないし、さっさと不具合を公開して対応しなければ被害は大きくなるだけなのに、何でこんなバカなことをしたのか。

それに、田中が一枚噛んでいるのちょっと腑に落ちなかった。

田中に事情を聞いたりしているうちに時間が経ってしまい、その日の業務がすっかり積み上がってしまって、佐々倉は真夜中だというのにまだ会社に残っていた。

今日も例の「鈴木さん」からクレームが来たらしい。
日中はほとんど席を外していたから、部下の山本が応対したようで、メモが残されていた。

恨みつらみ満載の泣き言のようなメモである。
鈴木さんの対応をしたんじゃ泣きたくもなるよな……、佐々倉は苦笑した。

恐らく、唐沢美穂が佐々倉への腹いせに山本へ丸投げしたのだろう。
唐沢も有能で事情が詳しいだけに、佐々倉にとっては頭の痛いことであった。

それにしても……、鈴木さんのしつこさは尋常じゃない。何気なく山本が添えてくれたメモをよんで佐々倉ははっとした。

佐々倉はちらりと時計をみる。12時半か……。

急いでコンピュータを立ち上げて、何やら調べ出した。



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