めぐり逢えたのに
佐々倉は私が指差したファイルをクリックした。佐々倉の顔色が変わる。

「……これだ。」

佐々倉はそこにある文書を全部プリントアウトし始めた。その後、文書をファイルごと自分あてのメールに転送している。
ようやく目当ての書類を見つけて一安心したようだった。

「これから、社に戻るから。万里花のおかげで助かったよ。やっぱりさすが『戸川のマリカ様』だね。」

「それ、関係ないでしょう。」

「だって、お父さんが戸川に心血を注いでいたことを誰よりも理解しているじゃないか。」

「………」

「でも、何で湖のほとり、なんてファイル名にしてたのかな。」

「崇と咲の留学してたスイスの学校の名前だから。叔父さんの大事な情報はそこに入ってるのかな、ってちょっと思った。」

佐々倉は、プリントアウトされてきた大量のコピーを手早く整えると、母の出したお茶にも目をくれず、さっさと出て行った。



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