めぐり逢えたのに
その日の夜、佐々倉は戸川社長と田中副社長と並んで、佐々倉議員と雨宮議員が入って来るのをじりじりと待っていた。
襖が開いて佐々倉議員と雨宮議員が入って来た。
場がさっと緊張するのがわかる。隣りに座っている田中副社長が低い声で咳払いをしたのが佐々倉の耳にも届いた。

当たり障りのない挨拶と乾杯が続く。不意に田中が口を開いた。

「時に、雨宮議員は何か聞いておりますでしょうか。」

雨宮はニヤリとする。

「坪井局長あたりから面白い噂を小耳にはさんではいるがね。」

「やはり、坪井さんの耳にも入っていましたか。」

「戸川に甘い顔をしていたから、報告してこなかった、国交省のメンツは丸つぶれだと、横田審議官もいきりたっているようだよ。」

リコールを隠蔽していることを揶揄しているのだろう。国交省が知っているのはここまでなのか?
佐々倉は神経を尖らせて会話の成り行きを見守った。

「そ、それには事情がございまして……、決して、国交省のメンツを潰そうとか思っていたわけでは……。」

田中は汗ダラダラである。



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