めぐり逢えたのに
「戸川が脅しにのった?」

「他にクレームは来ていなかったし、鈴木にしていれば大金でも戸川にははした金だ。鈴木の態度も悪かったので、もめるよりいいと判断したんでしょう。

ところが、その後、似たような不具合がちょこちょこ出てきて、リコールを認めたいけれども、鈴木の件が表に出てはまずい、とかなり対策に頭を悩ませているんです。鈴木の件が表に出たら、悪質なリコール隠しになってしまいますから。」

「横田審議官は、戸川に相当不信感を抱いていたようだが。」

「恐らく全てご存知なんじゃないでしょうか。」 

「では、私が出来ることは何もないようだね。」

雨宮は冷たく言い放った。

「いえ、リコールの件はきっちり公表して対応させて頂くつもりでおります。ですよね、田中副社長?」

「あ、ああ…、もちろんだ。」

佐々倉は田中から言質を引き出した。

「ですから雨宮先生のお力で鈴木の件を内々で納めて頂けないでしょうか。」

「そんな不正に加担するようなことはワシにはできんよ。」

腹黒親父め。佐々倉はすうっと息を吸い込んだ。



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