めぐり逢えたのに
ひどくスタイリッシュでスマートなスーツを着こなした佐々倉がやってきた。
もちろん、拓也の方がずっと目鼻立ちの整った華やかな顔だちだし、自由自在に動かせるように鍛え抜かれた身体も美しいのだが、薄暗がりで見る佐々倉は悪くなかった。

ピンと背筋を伸ばした姿勢や、洗練された優雅なしぐさは、薄暗がりのなかに浮かび上がるシルエットだとより一層強調され、いかにも彼の育ちの良さを表しているように思えた。

佐々倉は、私を見つけると静かに会釈をして椅子に座った。

「早速他人行儀ですか。」
「相変わらず、僕のやることは何であっても気に入らないんですね。」

さして気を悪くした風でもなく淡々と嫌味ったらしく言うのが佐々倉らしい。

「あった時には、やあ、とか、今晩はとか挨拶するじゃないですか。」
「どちらかというと、今晩はあなたの方が他人行儀な感じがしますけどね。」

私はため息をついた。

「今日は何回ため息をつくんでしょう。」
「さあ。今日は数えるんですか?」
「そうして欲しいなら数えますよ。」

私と彼の間には、お見合いの時みたいな、妙なよそよそしさとぎこちなさが漂っていた。
何だかいつもみたいな、通じ合うような会話にならない。佐々倉は私と距離を置こうとしているのだろうか。

ふっとそう感じて、私はぎくりとした。



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