めぐり逢えたのに
佐々倉は、口をあんぐりと開けて穴のあくほど私の顔を見つめた。それから、手元にあるパンをちぎって少したべて、ゆっくりとワインを飲んだ。

「……君は、骨の髄まで『戸川のマリカ様』なんだね。」
「………」
「全く、小野寺には敬意を表するしかないな。本当に君のことが分かってたんだ。
だからあの時、父上から君を取り上げることができなかったんだ。そうしなかったことを、あの時からずっと後悔しているだろうけど。」

ろうそくの向こうにぼうっと浮かび上がる佐々倉がどんな表情をしているのか、私にはわからなかった。

「オレも『戸川のマリカ様』に取り憑かれてしまったのかな……。最近は、君と一緒なら『戸川』に振り回されるのも悪くないと思ってるんだ。」

「私と一緒になりたいってこと?しおりさんは?しおりさんのことはもう吹っ切れたの?」

「どうかな……。そう言われると微妙なんだけど、小野寺と君が楽しそうにしてるのが気に入らない、と思う自分がいることは確かだ。」
 
「何、その持って回った言い方。」

「小野寺に嫉妬してるってことだよ。だから、もし、君が小野寺とすっぱり別れてくれるなら、君ときちんと結婚生活をやり直して、このまま『戸川』に残ろうと思っている。もし、君が小野寺とどうしても一緒になりたいなら、オレと離婚してくれ。」



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