めぐり逢えたのに

ある日、いつものように私が彼の部屋に遊びに行くと、彼は私をいきなり抱きしめた。

そんな風に彼が私を触って来ることは一度もなかったので、私は最初に会った時みたいにドキドキした。もしかしたら最初に会った時よりもドキドキしているかもしれない、と思った。やっぱりかすかにたばこの匂いがして、たばこの煙が私はとても苦手だったけど、この匂いは悪くないな、なんて思いながら抱きしめられていた。

「大きな役を取ったんだ。」

それだけ言うとすごく嬉しそうな顔をして私をぎゅうって抱きしめてくれた。私はすごくすごく幸せな気持ちになった。

「どんな役なの？」
「うん。ヒロインの恋人役。途中で殺されちゃうんだけどね…。」