めぐり逢えたのに
それから、私たちの話題はその舞台一色になった。

一緒に台本を読んで、感想を言い合ったり、二人でヒロインはどんな女人だったか想像しあったり、彼のお稽古の相手にもなった。私は彼の役に立てるのが嬉しかったし、何といっても恋人役をやるのはすごく楽しかった。

その台本ではヒロインは、最後に刺された恋人を抱き上げ、キスをするのだけれど、そこだけは彼は絶対に私とはやらなかった。お芝居ではヒロインと練習でも本番でもキスをするのだから、私は、それが彼の仕事だと分かっていてもやきもちを妬いた。
私が、

「舞台ではキスしてるじゃん。私にもして〜。」

ってせがんでも、彼は頑として首を縦にふらなかった。

「だって、アレは仕事だから。万里花ちゃんも、大人になって仕事を始めたらね。」

こんな風にいつも断られてた。

だから、私は早く高校を卒業して大人になりたい、って思ってた。



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