めぐり逢えたのに
聞き返す自分の声がとても弾んでいるのが自分でもわかった。

彼は、返事をする代わりに私を抱きしめたまま、私の顔中にキスをしてきた。私はくすぐったくて、思わず声をだしてくすくす笑いだした。

私は、今晩一晩一緒にいられるなら、一生ケータイを取り上げられてもいい、私たちは大事な連絡はいつもメモで伝えていたから、そんなに困る事はないって思った。

家から出られないなら、手紙を出せばいい、そんな風に思って、ずいぶんと時代遅れで、でも、ひどくロマンチックな思いつきに私はすっかり酔っていた。

その時、私のお腹がグーと鳴った。余りの恥ずかしさに私は顔が真っ赤になってしまった。彼はふっと、私の一番好きな、少し困ったような笑顔を見せて、

「ずいぶん待たせちゃったね。何か食べるもの買いに行こう。」

というと、優雅に私の手を取って戸を開けてくれた。
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