めぐり逢えたのに
私はまるで自分がお姫様か何かになったみたいな気がした。

急に、幼稚園のころ、マンハッタンのアパートに二、三ヶ月滞在した時のことを思い出した。そこでは、私が出入りする度にドアマンが必ず、グッドモーニング、リトルレディ、と言って丁寧にお辞儀をしながらドアを開けてくれていた。時々ウィンクなんかしてくれて、私は幼心にドキドキしたのを憶えている。

その時のまねをして、私もすこしツンとしながら、サンキュー、ミスターってすまして言いながら外に出たら、彼は、マイプレジャー、って言ってお腹の前で腕を折り曲げて丁寧なお辞儀をしたので、二人ともおかしくなってまた笑ってしまった。

私は、こんな風に、彼といろんなごっこ遊びをよくしていた。
彼には全然お金がなかったから、私たちは、ガラスの仮面ごっこと言いながら、やりたいことを、行ったつもりや、やったつもりになって遊んでいた。

彼は役者のたまごだったから、やっぱり何をやっても上手で、私たちは彼の部屋で延々何時間でもそうやって愉快に過ごすことができた。


私は、彼がいるだけでいつも満たされていた。
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