めぐり逢えたのに
次の日、学校が終わるのももどかしく、終業のチャイムとともに、彼の部屋へ向かった。

駅からアパートまで走りながら心臓がドクドクしてくるのがわかった。角を曲がって、見慣れたアパートが見えてくると少しほっとした。
私は、いつものように、手にした鍵でアパートのドアをがらがらと開け、中に入って行った。昨日と何らかわったところはない。一番奥の部屋を開けた。


部屋はもぬけの殻だった。


家具も何もない、のっぺりとした空き部屋だった。
私は、思わず外に出て、部屋の位置を確認した。隣りの部屋に間違えて入ったかもしれない、って一瞬思ったからだ。でも、私はそんな勘違いはしていなかった。


彼は、私の前から煙のように消えてしまった。


だから、彼は昨晩私をあんなに優しく抱いてくれたんだ……。

私と別れることを決めていたに違いない。お別れの前に一晩一緒に過ごそうと思ってくれたに違いなかった。

どうして急に別れたいと思ったのか、どうして何も言ってくれなかったのか、どうして突然消えてしまったのか、なのになんで私を抱いたんだろう……、聞きたい事はいっぱいあったけど、生憎彼はもういなかった。


私は、がらんとした彼の部屋の壁によりかかっていつまでもいつまでも座っていた。

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