めぐり逢えたのに
舞台が跳ねると何となくその母の知人と息子と4人で軽く軽食していきませんか、という話になり、近くのえらく古めかしい喫茶店に入った。

おばさま方二人は、たまごサンドを挟んで、本日の公演での新人の主役が、いかにかっこいいかという話を盛大にしていた。

私は口を挟むのは憚られたから、下を向いてだまっていたし、相手方の男も場をもてあましていたようで、スマホを取り出していじり始めた。
もう、とても退屈だったので、私はしびれを切らして、三人を残して一人で先に店を出て来た。
店を出ると、スマホ男が慌てて私を追いかけて来た。

「あの二人、話が止まりませんでしたね。」

私の横に並ぶと、スマホ男は私に声をかけて来た。私も、こういう時の愛想の良さだけは身に付いていたので、

「本当に。え……と、あなたはよく観劇されるんですか。」

と当たり障りのない話を振った。最初に紹介された時に名前をちらっと聞いたけど憶えてなかった。

「いえ、母に付き合わされただけです。万里花さんは?あなたもあのハンサムな主役のファンなんですか。」
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