めぐり逢えたのに
父はまるで私を相手にしていなかった。

私は、結婚を承諾した覚えは全くなかったのに、父も母も、そして佐々倉直樹も着々と結婚に向けて準備を進めていた。

なぜか周りの友だちにもこのことは知れ渡り、いつの間にか私は佐々倉直樹の婚約者ということになっていた。

こうなったら絶対に佐々倉直樹とは結婚しない。私はそう決めた。
せめて、それぐらいの意地は見せたかった。何でも言いなりなんてゴメンだ。


…とは言うものの、どうすれば結婚を阻止できるのか、皆目見当もつかない。

友美に相談してみても、結局さー、いいとこのお嬢さんなんて親の敷いたレールの上を生きるしかないのよ、なんてわかったような口を利くばっかりで妙案は浮かばなかった。

怒ってみたり、ご機嫌を取ってみたり、泣いてみたり、何度となく父に直談判してみたが、父がこう、と決めた決断が覆された試しはなかった。



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