めぐり逢えたのに
佐々倉直樹は、定期的に私に連絡を取って来た。とは言ってもせいぜいが月に一回ぐらい電話かテキストをよこしてご機嫌伺いをする程度のもので、向こうも義務的にこなしてるだけ、っていうのがアリアリで、それも私が結婚に乗り気になれない理由の一つだった。

お見合いから半年近くたった、まだまだ残暑の厳しい初秋のある晩、佐々倉が食事に誘って来た。
実を言うと、二人で食事に出かけたのはこの時が初めてだった。

「お久しぶりです。」

私はしょっぱなから不機嫌になった。

「お久しぶり、って婚約者に言う言葉ですかね。」

佐々倉はくすくす笑いながら、私にあじのたたきを勧めた。

「だって、あなたが会ってくれないんでしょう。会えばじゃけんにされるし、会わなきゃふて腐れるし、一体オレはどうすればいいんでしょう。」

「婚約を解消すれば全て丸く納まりますよ。」

佐々木はぷぷっと吹き出した。

「そんなこと、出来るわけないの、あなただって分かってるでしょう。あの戸川のおじさんが決めた事ですよ、うちの親父と。オレたちが太刀打ち出来るわけないんだから、ここはおとなしく結婚するに限るんですよ。」

この人は頭がおかしいんじゃないのか?
もう、私は腹が立って腹が立ってしょうがないので、目の前の日本酒をどんどん煽っていった。

「だから、偽装結婚しませんか。」
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