きみと、春が降るこの場所で


不甲斐ない、情けない。


詞織はきっと何もしなくていいと笑うんだろう。

そうやって、ひとりで深い眠りの果てをさ迷うんだ。


「私はね、詞織を信じている。波が過ぎれば起きている時間が増えて、普通の生活が出来るようになると」


彰さんの言う事は全て本当の事だった。嘘でも真実でもなく。ただ真っ当な事実。


けれど、今口にしているのは、ただの願望だ。


「彰さん」


「なんだい、朔くん」


「俺は、詞織のために何が出来ますか」


初めて人に意見を聞いた。

詞織が望む事と俺が望む事が重なれば、迷わずにそれを選べばよかったけれど、もう違う。


明日も詞織のそばにいたいと思っているのは、俺だけかもしれない。


そばにいたいからって、そばにいた所で、俺が苦しいんだ。

どうすればいいのかわからなくて、詞織に縋ってしまうだろう。


唾液を飲み込むのと同じくらい自然に、涙が零れる。


肩を強く抱き寄せられて、初めて全身で寄りかかれる存在を感じた。


支え合う関係だけでは、時々倒れてしまいそうになるほど、幼い俺達は。

たまにこうして抱き締められる事で、また一歩進む事が出来るのだろうか。


「詞織の言葉を思い出して、君が今、迷わずにやれる事をすればいい」


「…ぅっ……はい」


たくましい腕にしがみついて、思い切り泣く。

叫びたかったけれど、漏れる嗚咽で我慢をした。


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