きみと、春が降るこの場所で
詞織。
詞架は詞織によく似ているんだ。
頬に浮かぶ笑窪、長く伸びた髪が日に透けた色、ふとした仕草までがそっくり。
詞架が生まれた日、自分よりも大切な存在を初めて知った。
詞織は俺を自分と同じくらい大切な存在だと言った事があるらしい。
彰さんから聞いた話だから、直接耳にしたわけではないけれど。
俺にとっての詞織もそうで、今俺の一番そばにいる彼女もそうだ。
けれど、詞架だけは違った。
何にも変えられないものはいつもあったけれど、何に変えても抱き締めていたい存在が、こんなにも愛おしい事を知らなかった。
詞織がくれた、きみの一生はこれからもずっと俺の大切なもの。
抱き締めているだけで、幸せが湧き出て止まらないような、素敵な宝ものだ。
詞織が教えてくれたものと溢れるほどの幸せは、俺に繋がって、詞架に繋がっていく。
いつも楽しい思い出ばかりで埋める事は出来ないけれど、決して止まりはしないように、また別の誰かに繋がっていくといい。
いつだって、明日には詞織がいる。
きみを追いかけるように虹がかかれば、俺はその上を駆けるよ。
きみの足跡が消えないように、濃く深く踏み締めて。
また出逢えると、信じている。
忘れる事も忘れないでいる事も、同じくらい難しいけれど、俺の鼓動が止まるその瞬間まで、詞織の幸せを祈っている。
だから、どうか俺の幸せがほんのひと欠片でも詞織の幸せに繋がりますように。
その幸せが、止まりませんように。
泣かないように、笑って
また、笑えるように、泣いて
そんな日々が詞織の傍まで、続きますように。
【きみと、桜の降る丘で―きみを追う虹。―】