きみと、春が降るこの場所で
「あーしたのきょーうがしーあわせっになるようにー」
小声で口遊みながら、知らない道を進んで行く。
最近テレビのコマーシャルでよく聴く曲のワンフレーズ。曲名は知らないけれど、なんとなく口遊みたくなる。
明日の今日が幸せになるように、今日の私は何が出来るかな?って感じの曲。
明日の為に何かをする。
色んな事が浮かぶけれど、わたしは…そうだなあ。明日のために今日も生きる事、それだけかな。
何を相手に戦えばいいのかわからない病気。
寝て起きて、好きな事をして。いつまでも病室を空けないわたしを、お医者さんは嫌っているのかもしれない。
わたしだって、退院したいんだよー!って前に思い切り叫んだら、怒られちゃった。
そんな事を思い出して、あれはわたしが悪かったなあ、と反省をする。
少しだけ重くなった足取り。
宛もなく迷路のように曲がりくねった小道を辿っていると、脇道から学校が見えた。
学校名は知らないけれど、高校だ。
わたしの病室からも見えるし、微かにチャイムも聴こえる。
その度に思う。高校生っていいなあ、と。
わたしも一応通信制の高校に入っているけれど、レポートばかりで登校はほとんどしないし、制服もない。
ただただつまんなくて、必要のない勉強だとわかっていても、わたしの未来を信じているお父さんにそんな事は言えなくて、大人しく課題をこなしている。
でも、違うんだよ。
わたしがしたい事は勉強じゃないの。
友達がほしい。恋がしたい。
たとえ叶わない恋でもいいの。伝えたりはしないから、甘くて苦いという恋を知りたい。
なんだかね、前よりもずっと欲張りになっていくわたしがいるんだ。
色んなものをぎゅっと詰め込んだ、そんな人生を作らなきゃ、こんな短い一生を恨んでしまいそうになる。
どうして
なんで
こわい
つらい
くるしい
何度も胸の内に零して、その度に涙を流したけれど、口にした事は一度も無い。
だって、眠りの底で命を終えるんだもん。
辛くはないはず、苦しくはないはず。
何度も経験した『睡眠』の域を超えた眠りが、そう教えてくれた。
わたしが、毎朝目が覚めると安心して、眠りに落ちる瞬間は冷や汗を滲ませている事を、誰が知っているの?
誰も知らないんでしょう。
誰にも見つからないように泣くわたしを、本当は見つけてほしいのに。
こわいよ、なんて誰にも言えない。