きみと、春が降るこの場所で
足をぴたりと止めて来た道を振り返る。
いつの間にか、昼間なのに薄暗くて、どこか不気味な雰囲気の路地に迷い込んでいた。
だけれど、不思議と怖くはない。
だってわたしはいつも、こんな道を歩いてきた。今も歩いているんだ。未来は明るいと信じて。
もう一度前を向く。そこにはどこまでも薄暗い路地が続いている。
やだよもう。苦しいよ、泣きたいよ、頑張れないよ。
湧き出した感情の渦は瞬く間に全身に広がって、足が震え、手先の感覚がなくなる。
咄嗟にうずくまって膝を抱える。べしゃりとお尻に泥がつく感触がしたけれど、構ってはいられない。
「うっ……ふ、…やだぁ」
もう笑えないよ。何度もそう思って、その度に結局はまた笑っていた。
今度はもう、本当に笑えない気がする。
だって、こんなにも涙は枯れなくて、それなのに誰も気が付いてくれない。
「お、かぁさ…」
会いたい。お母さんに会いたい。
訊きたいの。
なんでお父さんをひとりにしたの?
わたしまでお父さんを悲しませてしまうくらいなら、お母さんが生きてわたしは産まれなければよかったのに。
お父さんはわたしを大好きで、わたしもお父さんが大好き。
それを遮るように、立ち塞がって目の前を覆う、わけのわからない病気のせいで、不安になる。
もっと、健康で明るくて、お父さんをいつも笑顔にしてくれるような子供がいるべき場所なんだ。今のわたしがいる場所は。
わかっているのに、それがいいのに。
しがみついてでも離れたくない。
ずっとここにいたい。
お父さんの娘であるわたしを否定したくない。