きみと、春が降るこの場所で
「朔の代わりなんて、いないよ。いらないよ。わたしは朔がいい」
まるで告白じみた大胆な発言なのに、どうしてこんなにも真っ直ぐに奥まで届くのか。
頭の奥に、耳の奥に、心の奥に、それよりももっと深い、奥の奥まで。
再奥さえも突き抜けて、優しく響く。
「だったら…会えないなんか言うな。行くから、どこへでも。詞織が呼ぶなら飛んでいく」
「えっ、すごいね!飛んでくるって、鳥みたいに?」
「…それでいいよ」
羽ばたくための翼はない。
飛べる気もさらさらないけれど。
詞織にもし、走っても追いつけなくて、跳んでも届かなくて、手を伸ばしても掴めない時は、鳥のように飛んでやるよ。
俺を呼ぶ詞織の声が聞こえなくなっても、きっと。